親族内事業承継の税務上のポイント

 

親族内事業承継の税務上のポイント
近年、後継者不足など中小企業における事業承継に関する問題が関心を集めいています。事業承継の手法には大きく分けて、ご子息などへ自社の株式を移転させる方法(親族内承継)、社内の役員や従業員あるいは外部の同業他社へ自社の株式を譲る方法(親族外承継)があります。
未上場会社における事業承継の多くは、後継者であるご子息などの親族に対する自社株式(経営権)の委譲であり、法制面においても中小企業経営承継円滑化法事業承継税制の創設など、中小企業の円滑な事業承継を後押しするための整備が行われてきたところです。ここでは、親族内承継が行われる場合の税務上のポイントについてご説明します。

 

親族内承継の一般的な手法

1.生前贈与

オーナー経営者からご子息などの親族へ自社株式を生前贈与することで、経営権を後継者へ委譲させる方法です。暦年課税の非課税枠を利用し毎年少しづつ贈与する方法や、相続時精算課税を活用して株価が低いうちに一括して贈与する方法があります。暦年課税と相続時精算課税はいずれも贈与時の時価に基づいて課税額が算定される点において共通しています。

 

2.譲渡

上記の生前贈与に代えて、自社株式をご子息などの親族へ譲渡することで、経営権を後継者へ委譲させる方法です。親族関係という特殊な関係にある個人間における未上場株式の譲渡であるため、株式の適正な時価(税務上の時価)の算定ならびに売り手であるオーナー経営者における株式譲渡益課税が主なポイントになります。なお、譲渡であることから、買い手である親族には株式の取得資金として一定の資金負担が生じます。

 

税務上の時価とは

親族内承継として行われる生前贈与譲渡は個人間の取引であるため、税務上の時価は相続税評価額(注1)となります。具体的には、財産評価基本通達における評価規定に基づいた評価を行うことになります。

<注1>

例えば、個人間で低額譲渡が行われた場合、売り手の譲渡益は実際の収入額に基づいて所得税が課税され、実際の収入金額と税務上の時価との差額に対しては所得税としての課税(みなし譲渡)は行われず、当該差額は『みなし贈与』として贈与税の課税対象とされることから、税務上の時価は、所得税法上の時価ではなく相続税評価額によることになります。

 

自社株式対策の重要性

このように、親族間で自社株式の移転(生前贈与や譲渡)が行われる場合、課税関係の基準となる価額(時価)は相続税評価額となります。過去の未処分利益の蓄積により内部留保(純資産額)が潤沢であるような会社においては、相続税評価額も高く算出される傾向にあることから、実際に自社株式を移転させた場合に予想を超える資金負担(贈与税や株式譲渡所得税の税負担、株式購入の資金負担)が生じる可能性があります。
自社株式の相続税評価額を引き下げるための対策には、組織再編成を含めた会社規模の変更、配当性向の見直しを通じた純資産額の縮小のほか様々な項目がありますが、その多くが短期間で対策できるような性質のものではないことから、事前の十分な検討と計画的な実施が求められます。

 

自社株式対策と税務リスク

自社株式の評価額引き下げ対策の重要性は、上記で述べたとおりですが、著しく経済合理性を欠くような組織再編成や過度な株価引下げ対策が行われたような場合には税務リスクも当然に高まります。相続税法における同族会社等の行為計算の否認規定、財産評価基本通達における国税庁長官の指示による評価規定などの租税回避防止規定には十分留意しつつ、慎重な検討と対策が必要となります。

 

 

中小企業において円滑な事業承継を進めるうえで、自社株式(経営権の委譲)に関する検討は非常に重要な項目となっています。当事務所は自社株式に係る税務上の評価額の算定ならびに税務リスクに十分配慮しつつ最適と考えられる組織再編成スキームのご提案を行っております。港区、世田谷区、千代田区、横浜近郊で事業承継対策に係る相談ができる税理士をお探しの方、お気軽にご連絡ください。